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遺産相続に期限はあるの?放置した場合に権利が消滅するケースを解説

会社支配権紛争・株式の相続 相続の手続き 遺産の分け方(遺産分割) 遺産相続の相続税などの税金 2022.07.23

1 はじめに

相続が発生した場合、もし、相続を放棄する場合には、自分が相続人であることを知ってから3か月以内に家庭裁判所に相続の放棄の申述をする必要があります。

それでは、相続の放棄をせず、遺産を相続した後に、この手続きはいつまでにしなければいけない、といった期限はあるのでしょうか。

民法上、遺産の分け方は、相続人間で協議して合意するか、家庭裁判所に決めてもらうことで決まります。このように、相続人間で遺産の分け方を決めることを、「遺産分割」といいます。

遺産分割を放置していると、民法上の権利が消えてしまうリスクや、会社法上の権利の制限、不動産登記法上の過料の制裁を受けるリスク、税金の軽減を受けれなくなる等のリスクがあります。

以下、解説します。

なお、市役所への各種届出の手続きの期限について、他の記事で、詳細に解説しておりますので、このページでは、相続人間で遺産の話合いを放置していることで生じる、権利の消滅や制限という実損害を中心に解説します。

市役所への各種届出の期限はこちらの記事をご覧ください。

2 民法上の権利消滅のリスク

(1) 債権の消滅時効

たとえば、被相続人が生前に第三者にお金を貸していた場合、その貸付金も、相続人が承継することができます。

しかし、貸付金は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないときは消滅時効にという制度によって、権利が消滅することがあります(民法166条1項1号)。

そのため、相続が発生した場合には、すぐに取り立てをしていく必要があります。その際、支払う側からすれば、相続人のうち、誰に返済すればいいか分からないと、交渉がまとまらないことがあります。相続人間できちんと話し合って、債権を回収しましょう。

(2) 第三者による取得時効による遺産の消滅

不動産を放置していると、例えば、第三者が勝手に占拠している場合には、取得時効という制度によって、他人に権利を奪われることがあります(民法162条)。

(3) 紛失

一番重要な問題は遺産の紛失です。時間が経ち、遺産であったはずの現金がなくなったとしても、どこにいったか分からなければ文句も言えません。無くなった遺産は分けることができません。

(4) 寄与分や特別受益の権利の消滅

本来、遺産分割協議においては、相続人の1人に対する生前の贈与や相続人の中で介護を続けたなどの事情を総合的に考慮して、現存する遺産を分けます。この分け方を、具体的相続分と言います。

しかし、民法が改正され、具体的相続分で計算できるのは、相続開始の時から10年を経過するまでに限ることになりました(民法904条の3)。10年を経過すると、生前の贈与や介護の貢献などが反映されない「法定相続分」という割合で分割することになり、不公平な分割となることがあります。

(5) 遺留分の消滅

遺産分割とは、遺産が残っている場合に、相続分をもっている相続人の間で、遺産の分け方を話し合うことです。遺産分割と似て異なる概念に、「遺留分」というものがあります。

一方で、遺留分とは、すてに遺言書や生前贈与によって遺産が特定の相続人に移ってしまった状態から、遺産を取り戻す権利を言います。遺留分の期限は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間です(民法1048条)。

遺留分の詳細な記事はこちらをご覧ください。

(6) 株主総会で議決権が行使できないリスク

遺産に株式が含まれている場合、会社法上のリスクもあります。

株式は、遺産分割協議が成立するまで、相続人間の共有状態となります。

共有状態の株式の議決権は、会社法106条によれば、共有者間で代表者を1人決めて、その代表者を会社に通知した上で、その代表者が株主総会で権利を行使すると規定されています。代表者を1人きめるためには、相続人間で協議する必要があり、話合いをしないと、株主総会で議決権が行使できません。

相続人の1人が、勝手に議決権を行使しても、あとで株主総会が取り消される場合もあります。

株式の相続の記事はこちらをご覧ください。

3 不動産の登記に関して10万円以下の過料を支払うリスク

過料とは,行政上の秩序の維持のために違反者に制裁として、裁判所が決定するものです。刑事事件の罰金とは異なり,過料に科せられた事実は,前科にはなりません

令和6年4月1日から、不動産登記法164条に規定された10万円以下の過料の対象に、正当な理由のない相続登記の申請の懈怠が追加されました。相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請することが、不動産登記法76条の2で法的義務とされたのです。

ただし、この義務は、遺産分割が済んでいなくても、自身が、相続人である旨の申出を法務局に申し出ることで履行したことになります(不動産登記法76条の3)。そのため、遺産分割を3年以内に終わらせないといけないという義務ではありませんが、不動産が遺産に含まれている場合には、相続開始時から、3年以内に相続人である旨の届出を法務局にするか、相続登記をしないと、過料を支払うことになる場合があります。

4 税務上のリスク

相続税の申告期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内となっています。

たとえば、死亡した日が5月20日だとすると、翌年の3月20日が申告の期限となります。

10か月たった時点で、遺産分割が済んでいなくとも、相続税の申告期限が延びることはありません。そのため、相続財産の分割協議が成立していないときは、各相続人が民法に規定する相続分に従って財産を取得したものとして相続税の計算をし、申告と納税をすることになります。

申告の際、遺産分割が済んでいないと、相続税の特例である配偶者の税額の軽減の特例や、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例などが適用できない申告になりますので注意が必要です。上記特例がないもとして申告し、その後、実際に遺産分割協議が済んでから4カ月以内に、実際の取得金額に応じて、特例を適用し、修正申告又は更正の請求をすることになります。

この特例の適用ができるのは、やむを得ない事情がなければ原則として、申告期限から3年以内に分割があった場合に限られます。

つまり、相続開始から3年10か月以内に遺産分割協議が成立しないと、やむを得ない事情がなければ原則として、減税措置を適用できなくなるので、注意が必要です(相続税法19条の2第2項、租税特別措置法69条の4第4項、相続税法施行令4条の2)。

そのため、税務上は、相続開始時から3年10カ月を一つの目安として、遺産分割協議が終了するよう、進めていくのがよいでしょう。もちろん、10カ月の申告期限内に終了することが一番です。

5 当事者で話合いが難しければ速やかに調停を。

このように、遺産分割を放置していても良いことはありません。遺産分割調停は、家庭裁判所での話合いですので、何も恐れることはありません。家庭裁判所の調停は非公開ですので、恥ずかしくもありません。

もめたまま時間が経つより、誰かが行動をした方が良いと思います。当事者同士で話合いが無理だと思ったら、調停を考えましょう。

弁護士に遺産分割調停を依頼するメリットはこちらの記事をご覧ください。

6(参考)遺産分割が終わっているのかどうかも分からないという方へ

ここまで、遺産分割の期限について説明してきましたが、中には、知らないうちに遺産分割が終わっていた、または、終わっているのか分からないというケースもあります。

多くの場合、相続人の誰かが中心となって、手続を進めていきます。

あまり遺産に関心がなく、言われるがままに署名押印をされている場合、遺産分割がどうなっているのか分からないこともあります。

こういう状況を放置していると、例えば、子の世代になってから、祖父の家の名義が変わっていないことがわかり、全員に、解体の義務が発生するなどの事態があります。

それでは、遺産分割が終わっているのかどうかは、何を基準に判断すればいいのでしょうか。

回答としては、遺産の名義が変わっているかどうかが、重要な判断要素となります。

遺産分割協議は、何のために行うかと言えば、それは遺産の名義変更のためです。

逆に言えば、遺産の名義変更ができていない間は、何らかの原因で、遺産分割協議が完了していないことが多いです。

遺産の名義変更が出来ているかは、不動産であれば法務局に、預貯金であれば各金融機関に、被相続人名義の遺産があるかを確認することで分かります。今も、被相続人の名義で遺産があるということは、名義変更が終わっていないと考えられます。もちろん、単に名義変更が漏れていたという場合もありますが、通常は、遺産分割協議が成立すると、名義変更まで進めます。

「サインも判子も押したから安心」ではなく、最後の名義変更までできているか、しっかりと確認しましょう。

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