遺言書に印鑑は必要?どうしても印鑑が用意できないときの拇印の注意点を解説
1 遺言書に印鑑は必要?
民法という法律では、自筆の遺言書の作成方法については、以下のルールを定めています。
民法第968条
1 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
このように印を押すというルールがありますが、「印」が具体的に何を指しているのか条文上は不明確です。
この点については最高裁の判例であり、判例では「押印としては、遺言者が印章に代えて拇指その他の指頭に墨、朱肉等をつけて押捺すること(以下「指印」という。)をもって足りる」と判断されています。
印章とは印鑑のことです。「印章」に「代えて」「指印」でいいという判断がされています。つまり、印鑑ではなく、指印(しいん))で有効ということです。なお、拇印(ぼいん)とは親指のことです。判例は、親指以外のその他の指でも有効と判断しています。
押印のポイント
- 印鑑ではなく指印でも有効
- 指はどの指でも有効
2 指印のデメリット
指印にもデメリットがあります。
遺言書としては対外的には有効で、その遺言書の定めに従って、金融機関や法務局で遺産の解約ができるわけですが、その遺言書に不満がある相続人がいる場合、相続人同士の内部で、もめることがあります。
つまり、「その指は、本人の指ではないのではないか」と争いになるリスクがあります。
もし、市役所がお墨付きをしてくれる実印だったら、このようなもめごとは起こりません。
デメリット
- 対外的には有効で名義変更はできるけれど、あとで相続人の間でもめるリスクがある。
3 指印をする場合のポイント
実印が手元にあれば、実印で押すのが安全ですが、場合によっては、実印などの印鑑が手元になく、急いで遺言書を作成しないといけないという場面もあるでしょう。たとえば、入院中で、自宅に印鑑を取りに帰れない状態である場合などです。
このような場合は、やむを得ず拇印などの指印で作成するというケースもあるでしょう。
そういう場合は、あとで、誰の指なのか分かるように、遺言書を作成している風景を、看護師さんや親族や弁護士などの専門家にスマートホンの動画機能などを使って撮影してもらうとよいでしょう。撮影者が誰もいない場合には、自撮りでも撮っていた方がいいでしょう。
4 実印が一番おすすめ(できれば撮影も)
以上のように指印で行う場合には、あとで、相続人が余計な疑念をもたないように、注意する必要があります。
本当に、本人が作成した遺言書かどうか争いにならないためには、実印がおすすめです。
ただし、実印を親族が預かっているようなケースでは、やはり、親族が勝手に作ったのではないかと争いになるリスクも皆無ではありません。
近年では、スマートフォンも普及してきましたので、作成時の動画作成もあわせてしておくと良いのではないでしょうか。
本記事では字が書ける場合の押印の注意点を解説しました。
字が書けない場合の遺言書の作成方法はこちらの記事をご覧ください。