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株式を相続した場合に遺産分割前でも株主総会で議決権は行使できる?株式の準共有状態について解説

会社支配権紛争・株式の相続 相続手続き・遺産の分け方(遺産分割・遺留分) 2022.06.11

1 株式の相続とは?

株式は、遺言や生前贈与や信託などの事業承継対策がされていない場合、相続人の共有(準共有)となり、議決権の行使を含む株主の権利行使において、一定の制約を受けます。

たとえば、100株の株式がある事案で、相続人が2人のケースにおいて相続が発生すると、株式100株全てが2人の共有株となるのです。当然に、相続人2人が50株ずつ分けて相続できるわけではありません。もちろん、2人の間で遺産分割協議書を作成するなどして、相続人2人の間での株式の分け方がしっかりと決まれば、共有状態は解消されるのですが、遺産分割が終わるまでは、共有状態として、以下で説明するような権利の制限を受けます。

2 相続された株式の株式総会での議決権の行使方法は?

共有となった株式の議決権の行使は、どのように行うのでしょうか。相続人全員の中で株主総会の決議事項の賛否の意見が分かれた場合には、どちらの意見が採用されるのでしょうか。

このときのルールについては、会社法106条と民法の共有に関する規定が適用されます。

 

会社法106条

株式が2以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者1人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。

民法の共有に関する規定(要約)

各共有者は,他の共有者の同意を得なければ,共有物に変更を加えることができない。

共有物の管理に関する事項は,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決する。

各共有者は,保存行為をすることができる。

 

会社法106条では、株式が共有状態にあるときは、共有者間で代表者を1人決めて、その代表者を会社に通知した上で、その代表者が株主総会で権利を行使すると規定されています。つまり、遺産分割協議成立前に、相続人が、法定相続分に従って、別々に議決権を行使することはできないのです。

しかし、この会社法106条の中には、共有者間で代表者を決めることができない場合の具体的な対応については、記載がありません。

このときの個別的な対応として、民法の共有に関する規定に従うことになります。上記に民法の共有に関する規定を記載しましたが、分かりやすく整理すると、民法では、共有物に何をするか(変更・管理・保存)によって、賛成しないといけない共有者の割合(全員一致なのか、過半数の同意でいいのか、1人の賛成でいいのか)を分けています。変更行為なら全員一致が必要ですし、管理行為なら持分価格の過半数が必要ですし、保存行為なら1人の決定でよいのです。

問題は、共有株の議決権の行使が、変更・管理・保存のいずれに当たるかということです。この点は、ケースバイケースとなりますが、会社法106条の通知がされないまま取締役選任などの議案について議決権が行使された事案において、最高裁の判例(平成27年2月19日)では、以下のように、議決権の行使は、原則として、管理行為に該当する、つまり、議決権の行使については持分価格の過半数の同意が必要という判断がされました。

「共有に属する株式についての議決権の行使は,当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し,又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り,株式の管理に関する行為として,民法252条本文により,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決せられるものと解するのが相当である。」

上記の判断を前提にすると、たとえば、100株の株式がある事案で、相続人が2人のケースにおいて相続が発生すると、相続人の持分は2分の1ずつで、1人が同意しても、半数しかなく、過半数には届かないため、結局、相続人2人の同意がないと、議決権の行使ができないことになります。

なお、会社法106条のただし書きにおいて、「ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。」と記載があり、一見、共有者間の持分価格の過半数による多数決によって代表者を決めなくても、共有者のうち1人が株主総会に出席して、会社がその人がいれば良いと同意した場合には、それで共有株について議決ができるという条文に読めますが、そのような解釈ができないということが、最高裁の判例(平成27年2月19日)で判断されています。

3 相続人の一部の同意を得ないでされた議決権の行使の効力は?

株式の相続間で、遺産分割協議もできず、会社法106条の代表者も決めることができない場合に、相続人の1人が議決権の行使をした場合に、その株主総会の決議は、有効でしょうか。

準共有の株式の議決権行使は、株式の管理に関する行為として,民法252条本文により,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決せられるとする最高裁の判例を前提にすれば、少なくとも、議決権の行使をした相続人の持分が過半数を満たさないケースにおいては、議決権の行使は、不適法となると考えらえれます。

そして、不適法な議決権行使によって株主総会の決議の成否が左右される場合や、共有株式が議決権を行使できないことで定足数を欠く場合には、株主総会の決議の取消事由になる場合があります。

なお、最高裁の判例(平成27年2月19日)は、株主総会の決議の取消が請求された事案において、共有者の持分の価格の過半数の同意がない議決権の行使は不適法となることから、株主総会の決議の方法に法令違反があるとして、取消が認められました。

4 株式の遺産分割や事業承継対策はお早めに

これまで説明してきたように、株式の相続が発生したときには、相続人間で、株式について話合いをきちんとしないと、株主総会が適法に開催できない可能性があります。株主総会が開催できないと、取締役の選任などの重要な決定ができなくなり、経営に支障が出ます。

株式に相続が発生したときには、早期に遺産分割を解決しましょう。

株式に相続が発生していないのであれば、①生前贈与、②遺言、③家族信託など、生前にできる対策をして、株式が分散しないように、対策をしましょう。

会社支配権紛争・株式の相続に関するその他の記事はこちらをご覧ください。

相続した株式の遺産分割時の株式の評価についてはこちらの記事をご覧ください。

相続した株式を会社に買い取ってもらう場合の手続きについてはこちらの記事をご覧ください。

5 株式の相続は弁護士にご相談を

遺産相続をサポートする専門家としては、税理士・弁護士・司法書士などが挙げられます。

この中で、相続人同士や第三者との交渉が必要な相続事件の解決は、弁護士が専門です。

そして、以下のようなケースでは、弁護士に依頼することで、相続問題を解決できる場合があります。

  • 交通事故や労災事故で死亡したので損害賠償請求をしたい。
  • 相続人と連絡がつかない
  • 遺産として何があるかが分からない
  • 遺言書の内容に納得ができない
  • 生前に多くの贈与がされており残った遺産だけでは平等ではない
  • 不動産の分け方がきまらない
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