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2019年7月1日以降の遺留分制度を弁護士が解説!

遺言書 2019.01.01

遺留分ついて民法の改正がありました。2019年7月1日以降の相続を対象に制度内容が変わります。
このページでは、2019年7月1日以降の遺留分制度について解説します。


1 遺留分とは?

遺言書で遺産を取得できないことになった相続人は、遺言書で多くの遺産を受け取った受遺者から、一定限度の金銭の支払を請求することができます(改正後の民法1046条1項)。
また、遺言書がなくても、遺産のほとんどを生前に自分以外の者に贈与され、遺産からの取り分が少くなった相続人は、多く取得しすぎた受贈者に対して、一定限度の金銭の支払を請求することができます。
このように、相続人が、遺産をとりすぎた人に対して、相続人に認められた最低限度の金銭の支払を請求することができる権利を、遺留分(いりゅうぶん)といいます。
なお、よく混同されがちですが、遺留分と遺産分割は別の概念です。遺言書による取り決めがなく、現在も故人名義で存在する遺産を話合いで分けることを遺産分割といい、すでに他人が遺産の名義を取得した後に、その他人に対して、金銭の請求をしていくことを「遺留分侵害額請求権を行使する」と表現します。
遺産分割と遺留分は法的にはこのように別の問題ですが、遺産を取得しようとする手続という点で共通しています。
遺言書や生前贈与によって、遺留分に達しない遺産しか受け取れなくなってしまった状態を、「遺留分が侵害されている」と表現します。
遺留分が侵害されていると、侵害されている金額について、多く遺産を取得した相続人らに金銭の請求をすることができます。
なお、遺留分という権利を行使するかしないかは、それぞれの相続人の自由です。遺産がいらないときには、遺留分は主張しないという選択をすることになります。
以下、遺留分侵害額の計算方法について説明していきます。

2 遺留分侵害額の計算方法

① 各人の遺留分額を計算する(1042条から1045条)
② 遺留分額から、各人が遺贈または特別受益として生前に受けた贈与の額を控除する(1046条2項1号)
③ さらに、遺産から、各人が取得できる遺産の価格を控除する(1046条2項2号)
④ 遺留分権利者が負担する債務の額を加算する(1046条2項3号)

3 遺留分を事例で解説

3-1 事例問題(基礎財産4000万円のケース)

Aさんの相続人は、子供のX君とY君の2人です。
Aさんは生前にX君とY君に、それぞれ3年前に1000万円(2人で2000万円)を贈与しており、さらに、残っていた遺産2000万円をすべて、Y君に相続させるという遺言書を残して死亡しました。
X君はいくら金銭を請求することができるのでしょうか。

3-2 X君の遺留分侵害額の計算

まずは、X君の遺留分額を計算します。
遺留分額は、民法1042条から1045条に詳しく計算方法が記載されています。このケースで説明すると、被相続人Aが相続開始の時に有していた財産2000万円に、さらに、生前贈与の額2000万円を加えた計4000万円を基礎財産として、これにX君の個別的遺留分割合4分の1を乗じます。すると、X君の遺留分額は1000万円となります。
次に、1046条2項1号にしたがって、X君が3年前にうけとった特別受益額1000万円を控除します。
続いて、1046条2項2号にそって、X君が遺産から取得できる額を控除しますが、今回は、遺産のすべてをY君が相続するという遺言書がありますので、X君が遺産から取得できるものはなく、控除額は0です。
最後に、1046条2号3号で、X君が負担する債務を加算しますが、今回債務はないので、加算額は0です。
以上を計算式で整理すると、
(2000万円+2000万円)×1/4-1000万円-0円+0円=0
計算の結果、遺留分侵害額は0となりました。
この場合、X君は、生前に受け取った1000万円があるため、最低限度の補償額である遺留分に達しているため、金銭を追加で請求することはできないという結論になります。

3-3 基礎財産が5000万円だったら?

それでは、先ほどの事例を少し変えて、遺産が3000万あり、遺言書ですべてY君に相続させていた場合はどうなるでしょうか。X君もY君も1000万円ずつ生前贈与を受けている点は先ほどの事案と同じです。
X君の遺留分額は、民法1042条から1045条にしたがって計算すると、被相続人Aが相続開始の時に有していた財産3000万円に、さらに、生前贈与の額2000万円を加えた計5000万円を基礎財産として、これにX君の個別的遺留分割合4分の1を乗じます。すると、X君の遺留分額は1250万円となります。
次に、1046条2項1号にしたがって、X君が3年前に受け取った特別受益額1000万円を控除します。
続いて、1046条2項2号にそって、X君が遺産から取得できる額を控除しますが、今回も、遺産のすべてをY君が相続するという遺言書がありますので、控除額は0です。
最後に、1046条2号3号で、X君が負担する債務を加算しますが、債務はないので、加算額は0です。
以上を計算式で整理すると、
(3000万円+2000万円)×1/4-1000万円-0円+0円=250万円
今度は、計算の結果、遺留分侵害額は250万円となりました。
X君は、多く遺産を受け取っているY君に対して250万円の金銭の請求をすることができます。

4 遺留分侵害額請求権の期限と方法

4-1 遺留分侵害額請求権の期限

遺留分を主張して、遺留分額に不足する金額の支払を求めることを遺留分侵害額請求といいます。
この請求は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間で時効で消滅します(1048条)。
自分が遺産を受け取れないという内容の遺言書を知ったときには、その時から1年間の間に、遺留分を主張しましょう。1年間の間に金額まで正確に計算する必要はなく、自分が遺留分を主張するのかどうかの意思を表示すれば良いです。
また、死亡日から10年を経過すれば、遺言書の存在を知らなくても、請求できなくなります(民法1048条)。
知ってから1年、知らなくても10年で遺留分が主張できなくなると覚えておきましょう。

4-2 遺留分侵害額請求権の行使方法

口頭でも、遺留分を請求したことにはなりますが、やはり、後日言った、言わないということにならないよう、文書で送付すべきでしょう。
最低限、「遺留分が侵害されているので遺留分侵害額の金員の支払を求める」等の遺留分を主張していることが分かる文言を記載しておきましょう。

5 裁判で遺留分を争うポイント

5-1 手続の概要

遺留分減殺請求は、相続に関する紛争ではありますが、遺産が他人が取得したことを前提に、金銭の支払を求める手続ですので、故人の名義の遺産の取得者を決めるという遺産分割とは制度が異なるものです。
したがって、遺産分割調停を行うのではなく、受遺者や相続人に対して、個別に、金銭の支払を求める調停または地方裁判所への訴訟を提起する必要があります。
民法が改正される前は、遺留分の権利があれば、金銭ではなく、遺産(たとえば不動産)の名義を取得するという方法も用意されておりましたが、今回の改正によって、請求できるものが、金銭請求に一元化されました。もちろん、改正後も、当事者間で、金銭が払えないから、遺産をお金の代わりに返すといった合意をすることは認められていますが、合意ができない場合には、あくまで金銭での解決しかできないという制度に変更されました。

5-2 調停の流れ

まずは、当事者間で話合いがつかないときは、家庭裁判所に調停を申し立てます。
家庭裁判所の場所は、調停の相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。
調停は、非公開の場で行われ、当事者同士が対面しなくても、調停委員や代理人を通じて解決を図る制度です。
遺留分制度は基本的には計算で結論が出る紛争ですので、多くの事例は、調停か、調停前の話合いにより解決されます。

5-3 民事訴訟の流れ

支払ってもらう金銭の額や支払方法について、調停で話合いが成立しない場合には、地方裁判所(金銭の請求額によっては簡易裁判所)に対して、民事訴訟を提起する必要があります。
訴訟では、おもに、遺産の額、債務の額、生前の贈与の有無・額、遺産の評価額などが審理されます。
訴訟に移行するケースでは、正確な計算が必要となりますので、弁護士の関与が事実上必要不可欠な訴訟類型となっています。
可能であれば、調停段階から弁護士を入れ、訴訟まで至らないよう解決することが望ましいでしょう。