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婚姻期間が長い夫婦間で居住用不動産を贈与する方法を弁護士が解説

名義変更 遺産分割 遺言書 2020.01.03

はじめに

婚姻期間が長い夫婦同士で、配偶者の老後のために、生活している不動産の名義を配偶者に変えておきたいというニーズがあります。

不動産の名義を変える場合、夫婦間でも「贈与」という登記原因で名義を変更することになります。

夫婦間で「贈与」をする場合には、①贈与税がどうなるか、また、②他の遺産の相続のときに影響があるのか検討しておく必要があります。

贈与税での配偶者の優遇

贈与税のルールは、「相続税法」という法律に規定されています。

相続税法21条の6では、「贈与税の配偶者控除」という制度が設けられています。

この制度は、婚姻期間が20年以上である配偶者から、居住用不動産、又は、居住用不動産を購入するための金銭を取得した場合に、その年分の贈与税については、課税価格から2000万円(当該贈与により取得した居住用不動産の価額に相当する金額と当該贈与により取得した金銭のうち居住用不動産の取得に充てられた部分の金額との合計額が2000万円に満たない場合には、当該合計額)が控除されるというものです(相続税法21条の6第1項)。

したがって、婚姻期間が20年を経過した時期に、配偶者に不動産を贈与すれば、贈与税の納税額を抑えることができます。

この配偶者控除を受けるためには、贈与税の申告書を提出する必要があります(相続税法21条の6の第2項)。

遺産相続面での配偶者の優遇

ご自身の財産が、居住用不動産以外にもある場合には、居住用不動産を生前贈与した後、相続のときに残りの財産がどのように配分されるかを検討しておく必要があります。

例えば、評価額2000万円相当の居住用不動産を婚姻期間が20年以上経過した配偶者に生前贈与した後、預金が2000万円残っていたとします。相続人が配偶者と子の2人である場合、預金2000万円は、どのように配偶者と子に配分されるでしょうか。

この取り扱いについて、居住用不動産の生前贈与が令和元年7月1日以降にされたものであるか、それよりも前にされたものかによって、扱いが異なります。

令和元年7月1日より前に、居住用不動産が生前贈与されていた場合

相続人の1人に生前贈与があった場合には、生前贈与がなかったと仮定した場合の遺産の配分となるように調整して、残余財産を分けるのが民法の原則です(民法903条1項)。

具体的には、先ほどの事例ですと、生前贈与された財産も含めた総財産は4000万円であり、配偶者は既に2000万円相当の不動産を受け取っているので、原則として、預金2000万円は全て子に相続されることになります。これは、特別受益という考え方です。

特別受益の概要の記事はこちら。

生前贈与をしたときに、残りの遺産を半分ずつ分けるといった決め事に証拠に残っていれば、配偶者が預金を受け取れる場合もありますが、そういった証拠がなく、配偶者と子がもめると、このような結論となってしまいます。もし、令和元年7月1日より前に生前贈与をされている場合で、贈与した方がご健在のときには、今からでも遅くありませんので、贈与した方が、遺言書などで、この生前贈与を含めて残りの遺産を分けるのか、生前贈与は含めずに残りの遺産を分けるのか、明確にしておきましょう。

令和元年7月1日以降に、居住用不動産が生前贈与されていた場合

この場合、預金2000万円の配分については、原則として、居住用不動産の生前贈与がなかったものとして、配偶者と子に1000万円ずつ配分されます。

これは、民法903条4項で、婚姻期間が20年以上経過した夫婦間で居住用不動産を生前贈与した場合には、原則として、生前贈与を考慮せずに遺産を配分するとの意思表示があったものと推定するとの規定が民法改正で追加されたためです。

これは、遺言書がない場合でも、長年連れ添った配偶者に有利になるように生前贈与の意味を解釈しようという法令改正です。

もちろん、遺言書でさらに細かく取り決めすることもできます。遺留分の制約はありますが、遺言書で、残りの遺産も全て配偶者に遺贈すると取り決めることも可能です。