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葬儀費用を払っても相続の放棄は受理されるか?弁護士が相続放棄を事例で解説!

相続の放棄 2017.10.06

1 よくある事例

父が亡くなり、父のわずかな預金を解約して葬儀費用にあてました。
しかし、その後、借金があることが分かりました。債権者に確認したところ、もう預金を使ってしまったのなら、放棄はできないと説明されました。
こんな場合、葬儀費用を払った人は、相続の放棄ができないのでしょうか。


2 相続の放棄をするときに、やってはいけないこと

民法には、相続の放棄ができなくなるケースが定められています。

第921条
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
①相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条 に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
②相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
③相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

①は遺産を処分したとき、②は相続の放棄をせず3か月が経過したとき、③は放棄をした後でも遺産を隠匿や消費した場合です。
葬儀費用を遺産から払ってしまった場合には、①「相続財産の全部又は一部を処分した」に該当するのかが争われます。もし、該当するのであれば、もう相続の放棄はできないという結論になります。


3 葬儀費用の支払は、相続財産の処分と言えるのか

(1)そもそも葬儀費用はだれが負担するものか?

葬儀費用は、誰が負担するものかについては、学説や裁判例は分かれていますが、有力なものは、葬儀を主宰した喪主が負担するという説です(東京地判昭和61・1・28家月39巻8号48頁)。一方で、香典は喪主への贈与と考えられています。この説を前提にすると、喪主は、受け取った香典の中で葬儀を主宰し、もし不足があれば自分の財産を利用して葬儀費用を払うべきという結論になります。
すると、遺産から葬儀費用を払った場合には、本来喪主が負担するべき費用の支払のために、相続財産を処分したということになり、民法921条の禁止事項に違反していると言えそうです。
しかし、実際の裁判例では、そこまで厳格に禁止はされていません。
民法921条1号は、相続の承認をみなされる(借金も承継する)という法的効果を与えるのに、妥当な程度の処分でなければならず、軽微な処分は、民法921条1号に違反しないとされています。

(2)裁判例の傾向

① 東京控判昭和11・9・21法律新聞4059号13頁 約束手形金請求事件

この事案では、「遺族として当然に営まなければならない葬式費用の支出は、道義上必然の行為であって明治民法1024条1号(現行921条1号)のいわゆる相続財産の処分に該当しない」と判断されました。
この判決は、文言上、許される支出としては、「当然に営まなければならない葬式費用」に限定しているようです。

② 大阪高裁昭和54・3・22家月31巻10号61頁 相続放棄申述受理却下に対する即時抗告事件

この事案では、相続人が行方不明であつた被相続人の着衣、身回り品、わずかな所持金2万余、遺体などを所轄警察署から引き渡されて、その場で火葬費用等の支払にあてたという事情のもとにおいては、民法921条1号の「相続財産の一部を処分した」ものとはいえない、としました。
この判決は、処分財産が、交換価値がなく、火葬費用という最低限必要な支払に充てられたという点が特徴です。

③ 大阪高裁平成14・7・3家月55巻1号82頁 相続放棄申述却下審判に対する抗告事件

この事案では、預貯金等の被相続人の財産が残された場合で,相続債務があることが分からないまま,遺族がこれを利用して仏壇(92万7150円)や墓石(127万0500円)を購入した事案で、購入した仏壇及び墓石が社会的にみて不相当に高額のものとも断定できない上,それらの購入費用の不足分を遺族が自己負担としていることなどからすると,「明白に法定単純承認たる『相続財産の処分』(民法921条1号)に当たるとは断定できないというべきである」として、相続の放棄の申述を受理しました。
この判決は、借金の額が5000万円を超過していたケースで、知らずに支払をした遺族を救済した事案です。ただし、相続の放棄が受理されただけで、正面から、相続の放棄の効力を争われた事案ではありません。家庭裁判所は、明らかに相続の放棄の受理要件を満たさないものを除いて受理を行い、その受理された相続の放棄の効力を民事訴訟に委ねています。


4 結論

これまでの裁判例の流れからすれば、借金の存在を知らないまま相当額の葬儀費用を遺産から支出しても、相続の放棄が受理される可能性があります。あきらめず申請を行いましょう。

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