相続した株式を会社に買い取ってもらう場合の税金は?相続後3年10カ月以内の買い取りが有利である理由を解説
1 会社に株式の買い取ってもらうときに、株主(相続人)に発生する税金は?
株式を相続すると、まず、その段階で、相続税がかかります。
そして、相続した株式を会社に買い取ってもらう場合(自己株式の取得)には、さらに、所得税として、①譲渡所得(所得税法33条)と②配当所得とみなされる所得(所得税法25条)に関する税金を負担する必要があります。「譲渡所得」と「配当所得」では税金の計算方法が異なります。純粋な売買だけなら①の譲渡所得のみとなりますが、株式を自社に買い取ってもらう場合には、売買という側面に加えて、会社からのこれまで積み重なって増えてきた利益の配当という側面もありますので、買い取り代金の一部が配当所得として計算されます。
このうち、非上場株式の譲渡所得については、給料や事業の所得などとの合算による累進課税ではなく、20%の税率(所得税15%、住民税5%)で固定されています(タックスアンサーNo.1463 株式等を譲渡したときの課税:申告分離課税)。
一方で、買い取り代金のうち、配当所得とみなされる部分については、原則として、給料は事業の所得などの他の費目と一緒に合算された累進課税となります。自己株式を一気に買い取ってもらう場合には、累進課税となりますので、所得金金額が4000万円を超えると所得税の税率は45%まであがります(タックスアンサーNo.2260 所得税の税率)。
このように株式を会社に買い取ってもらう場合には、原則として、所得税の税率が一定ではなく、累進課税となっていることに注意が必要です。
ただし、下記に説明するとおり、納税者の税負担を軽減するための特例が、2つ用意されています。
2 3年10カ月以内の買い取りについての特例
税負担の軽減のために、①譲渡対価の全額を譲渡所得の収入金額とする特例と②相続税額を取得費に加算する特例の2つが租税特別措置法に規定されており、一定の条件を満たせば、上記の所得税が安くなります。
いずれも、相続の翌日から3年10カ月以内に株式を買い取ってもらった場合にのみ認められる規定です。
つまり、相続した株式は、買い取り代金が高額となり累進課税が高くなる場合や相続税を支払っている事案においては、相続の翌日から3年10カ月以内に売却した方が、個人株主が負担する税金が安くなるのです。
2-1 譲渡対価の全額を譲渡所得の収入金額とする特例(タックスアンサーNo.1477)
一つ目の特例は、所得税の分類に関する特例です。非上場株式を譲渡した場合には、原則として、譲渡所得と配当所得の2種類が発生し、配当所得は累進課税となり、高額な税負担が発生しがちですが、この特例は、配当所得を排除して、税率が固定された譲渡所得のみとするものです。
すなわち、相続によって財産を取得して相続税を課税された人が、相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、相続税の課税の対象となった非上場株式をその発行会社に譲渡した場合においては、配当所得とはみなされず、発行会社から交付を受ける金銭の全額が株式の譲渡所得に係る収入金額とされます。
そのため、相続の翌日から3年10カ月以内に会社に自己株式を買い取ってもらった場合には、配当所得ではなく、全額が譲渡所得となり、所得税の税率は、譲渡所得金額の15%に限定されます。つまり、相続の翌日から3年10カ月以内に会社を買い取ってもらった場合の所得税は累進課税ではなく、15%の分離課税となります。
2-2 相続税額を取得費に加算する特例(タックスアンサーNo.3267)
もう一つの特例は、譲渡所得の金額において控除できる取得費の金額を増やす、つまり、所得金額を減らす特例です。
相続によって財産を取得して相続税を課税された人が、相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、非上場株式の譲渡による譲渡所得金額を計算するに当たり、その非上場株式を相続または遺贈により取得したときに課された相続税額のうち、その株式の相続税評価額に対応する部分の金額を取得費に加算して収入金額から控除することができます。
これは、株式を相続したことによって、支払った相続税の一部を、その株式を売却するときに、経費として控除できるとするものです。
3 相続した株式の処分に関する相談は弁護士に
相続した株式は、相続人の間での共有財産となり、この株式を処分するには、相続人間での話合いが必要です。
そのため、相続人と話合いがつかないで、放置していると、期限が過ぎることで、上記に説明したような所得税の軽減措置をとれなくなるリスクがあります。
相続人間で話合いが進まない場合には、是非、弁護士にご相談ください。
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