遺産相続の流れ

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STEP04 | 遺産の名義変更

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弁護士が教える遺産(不動産、預金、自動車、株式、保険)の名義変更・相続手続のまとめ

この記事の目次

1 遺産の名義変更の共通点

遺産の名義変更の手続は、遺産の内容によっても異なりますが、おおむね、①名義人の相続関係がわかる戸籍を調べる、②所定の用紙に相続人全員の署名と実印での押印をもらう、という手続です。
手続は単純なので、遺産の名義は、順序を経れば、必ず変えることができます。

しかし、名義変更をせず遺産が、被相続人の名義のままになっているのは、次のような理由です。

・相続人の1人が印鑑を押してくれない。

・遺産に何があるか分からず、遺産のリストから漏れてしまっている。

・家などは名義を変えなくても事実上住めるので、後回しにしている。

このページでは、遺産の名義変更の手続を案内しています。今であれば10人の実印で足りたものが、皆さまの次の代になれば、20人以上の実印が必要になるかもしれません。このページをご覧になった皆様については、是非、この機会に名義変更を再開してください。

2 不動産の探し方・名義変更

不動産の探し方

不動産が所在する市町村は、固定資産税を課税するため、固定資産課税台帳を作成しています。
同一の所有者に帰属している不動産を一覧表にしたものを名寄帳(なよせちょう)といい、相続人は、地方税法387条、382条の2第1項の規定に基づいて、名寄帳の写しの交付を受けることができます。
この一覧表によって、およその不動産を把握することができます。

不動産の名義の確認

不動産が誰の名義になっているかを正確に確認するには、法務局で、不動産登記事項証明書を取得する必要があります。

固定資産税の納税者と不動産の名義人(登記)は、必ずしも一致していません。名寄帳に記載があっても、先代の名義のままになっていたり、他の相続人が固定資産税を納税しているため、故人に持分はあっても、名寄帳に載っていないことがあります。そのため、正確には法務局で調査をする必要があります。

ちなみに皆様は権利証をお持ちのことと思います。法律事務所に権利証をお持ちになる方は多いのですが、実は、権利証では現在の名義が誰になっているか分かりません。権利証は、権利を取得したときに交付されるもので、その後の不動産の名義の変更は記載されないからです。

不動産の名義変更の手続

故人の名義になっている不動産について、名義を変更するには、相続人が、法務局に不動産登記申請を行う必要があります。相続人が確定できる戸籍謄本、被相続人の戸籍の附票、実印が押印された遺産分割協議書、印鑑証明書、相続する方の住民票の写しなどの資料を添付して、法務局に所有権移転登記申請書を提出します。
この手続は、本来、相続人本人でできる建前となっていますが、手続が少し複雑で、司法書士もしくは弁護士が代理をして申請をすることが多いです。

相続が開始すると相続人宛てに固定資産税の納税通知がきて、これをお支払いされていることから、名義が自動的に変わっていると思われている方もいらっしゃると思います。しかし、残念ながら、不動産登記制度と固定資産税はまったく異なる制度であり、完全な縦割り行政となっています。不動産登記の名義が変わっていなくても、役場は相続人を調査し、相続人の1人に対して、固定資産税の納付通知書を発送します。
納付通知書を送付された相続人は、名義を変えていなくとも固定資産税の全額を払う必要があります。
納税通知書が届いているから、名義も変わっていると誤解する方が多くいらっしゃいますが、あくまで不動産の名義は、法務局に申請しないと変更できません。

もし、故人よりさらに前の代の名義になっている不動産がある場合、故人の兄妹や甥・姪といった親族も含めて、古い遺産分割協議から順番に実施していき、名義変更を順次していく必要があります。


3 預貯金の探し方・名義変更

預貯金の探し方

金融機関にも守秘義務があるので、いきなり窓口にいっても預貯金の有無を教えてくれません。

預貯金については、相続が発生した後被相続人が死亡したことが分かる戸籍謄本、自分が相続人であることが分かる戸籍謄本を各金融機関に提出すれば、金融機関が故人名義の預貯金があるか開示してくれます
支店ごとに照会をするのではなく、金融機関の本店に対して、全支店の預貯金の照会をすると、手間が省けます。

なお、故人が金融機関に届けていた住所が古い住所のままで、死亡時の住所と一致していないと、金融機関は同姓同名の人物との区別ができず、名義人の特定ができないため、誤って遺産が無いと回答されることがあります。
そのような場合には、戸籍の附票という住所の変遷を証明する書類が本籍地の市町村役場で取得できるので、これを添付しましょう。

預貯金の解約の仕方

金融機関は、遺言書がある場合などを除いて、遺産である預貯金の全てを、相続人の1人だけに払うことはありません。
通常は、相続人のうち、払い戻しを受ける代表者を選ぶための届出書の提出を求められます。この届出書には、相続人全員の実印と印鑑証明書の添付が必要です。

入院費用や最低限の葬儀費用の金額については、相続人全員の同意が無くても、預金の一部の払戻しを認める金融機関もありますが、法律上の制度として認められているものではないため、断られることもあります。

あせらず、一つずつ手続をしていきましょう。

遺産の分割前における預貯金債権の行使(2019年7月1日以降)

民法の改正によって、2019年7月1日以降は、少額に限りますが、相続人が1人で預金を払戻しできるようになりました。趣旨は、被相続人に債務などがあり、遺産分割が終わるまで待てないケースでも一部の預金を下ろして支払に対応できるようにすることです。

具体的には、各相続人は、金融機関ごとに、相続開始時の債権額の3分の1に、法定相続分を乗じた額(上限150万円)を単独で払戻しできます(改正後民法909条の2)。

例えば、Aさんの子がXさんとYさんの2人で、Aさんが亡くなった場合、1つの金融機関に預金が300万ある場合には、Xさんは、Yさんの同意が得られなくても、債権額の3分の1である100万円に法定相続分2分の1を乗じた50万円の払戻しができるようになります。

Xさんが、受け取った50万円は、預金300万円のうちの50万円を先に受け取ったという処理になります。つまり、もし遺産が預金の300万円で、XさんとYさんの具体的相続分が平等であるなら、残りの預金250万円は、Xさんが100万円、Yさんが150万円を取得することになります。

もしXさんが、下した50万円を使って、相続債務50万円を立て替えたのだとすると、それはそれでYさんに25万円の立替金として請求することになります。そうすると、XさんもYさんも実質的な取分は125万円ずつとなり公平になります。

なお、この制度の上限額は1金融機関について150万円ですが、これでも足りない場合には、家庭裁判所に預金の仮分割の仮処分を申し込む必要があります。


4 自動車の名義変更

故人が使用していた自動車を相続する人が決まったときは、相続を原因として、新しい所有者に名義の移転登録の申請をする必要があります(自動車運送車両法13条1項)。
また、自動車検査証の記載事項にも変更が生じるため、国土交通大臣が行う自動車検査証の記入を受ける必要があります(13条3項、67条1項)。
申請先は、当該自動車を新しく使用する者の本拠地を管轄する運輸支局です。
印鑑証明書、車庫証明書、車検証、自動車税・自動車取得税申告書、相続関係が分かる戸籍謄本、遺産分割協議書等の資料が必要となります。

移転登録の申請期限については、死亡から15日以内と自動車運送車両法では定められています。しかし、通常、死亡15日以内に、取得者が決まることは多くないと思われます。そのため、移転登記が15日を過ぎても罰則はありません。

しかし、いつまでも放置して良いわけではありません。

名義変更をしていない状態の自動車は、相続人全員の共有の自動車ということになります。
そのため、名義変更未了の自動車税や軽自動車税については相続人全員が連帯して納税する義務を負います(地方税法10条の2)。また、相続人1人が単独で運転して人身事故を起こした場合に、他の相続人も、車の所有者として責任を負う場合があります(自動車損害賠償保障法3条)。

税金や賠償責任の点を考えると、速やかに移転登録を行うのが良いでしょう。


5 株式・投資信託の名義変更

株式の譲渡方法と窓口

(1)株券がある場合

上場株式の株券が発見された場合、その株券自体は電子化によって無効となっています。
株券が無効となる代わりに、株式は、上場会社が信託銀行などの管理機関に開設している「特別口座」で管理されています。
相続人が証券会社で取引口座を開設し、特別口座から、取引口座に移す必要があります。

非上場企業であれば、株式が電子化されていない場合があり、そのときは、株式会社に対して、直接、株主名簿の名義変更を請求しなければなりません。
相続人は、株式会社に対して、相続をしたことを証明する書面(戸籍謄本、遺産分割協議書等)を提出する必要があります(会社法施行規則22条1項4号)。

(2)株券がない場合

株券が見つからない場合でも、故人が、①上場株式を振替制度によって管理しているケース、②中小企業などの上場していない株式を所有しているというケースが考えられます。

故人が、上場株式を振替制度を利用して所有していた場合には、証券会社からの通知書等の書類が遺品に含まれているはずです。証券会社に問合せをしましょう。
相続人の名義に移すには、相続人が証券会社に取引口座を開設し、遺産分割協議書など相続をしたことを証明する書類を提出して、株式を相続人名義に移す必要があります。

故人が中小企業の株式を所有していた場合には、例えば、通帳などを確認すれば、配当金が入っていることがあります。会社役員をされていた場合には、その会社や関連会社の株式を所有していた可能性があります。
これらの株式会社に死亡の事実を伝え、株主名簿の変更を請求する必要があります。

投資信託の相続と窓口

投資信託についても、上場株式と同様に、証券会社を通じて相続人が口座を開設し、移管する必要があります。

遺産分割協議前の株式の議決権

株式の名義変更が終わっていない時期における議決権の行使方法については、こちらの記事をご参照ください。

 


6 生命保険金の受領

生命保険金の特徴

生命保険金の受取人が指定されている場合、生命保険金は、受取人の固有財産、つまり、遺産ではないと考えられています。
遺産ではないということは、受取人が他の相続人の同意なく単独で受領することができ、また、相続の放棄をして相続人の地位を失っても生命保険金は受領できるということです。

生命保険金が特別受益といえるか。

相続人が2人しかおらず、片方だけ生命保険金の受取人になっていた場合、他の遺産については、生命保険金を含めて平等に分配するのでしょうか。それとも、単純に残った遺産だけを均等に分ければいいのでしょうか。
結論としては、ケースバイケースになります。
生命保険金は遺産ではないことから、原則として、生命保険金と遺産の分割方法は関連しないはずです。
しかし、生命保険金額の遺産に対する割合が高く、遺産を分配するだけでは著しく不公平と言える場合には、例外として、生命保険金を遺産の前渡しである特別受益と評価して、遺産の分配方法を調整することがあります。
この点は、裁判例も、事案によって結論を変えています。


7 相続人の1人が印鑑を押してくれなかったら

遺産の分割について相続人の間で話合いがつかない場合には、家庭裁判所に分割を請求します(民法907条2項)。

最終的に、全員が一致する分け方が決まらない場合には、家庭裁判所が、遺産の分け方を決めてくれます。

家庭裁判所の手続の詳しい記事はこちら

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