遺産相続の流れ

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STEP06 | 遺産紛争の解決手段

6-5
弁護士が解説する、使途不明金を争う訴訟のポイント

この記事の目次

1 使途不明金とは?

被相続人の同居者が、被相続人の預金を、死亡前後に引き落とすことは実務上多々あります。
引き落としの使途としては、

①死亡すると預貯金が凍結するため、死後事務のために管理しやすいように生前に引き落としておく、
②被相続人に贈与すると言われたので、自分のために引き出す、
③被相続人のために使用するため、被相続人の代わりに引き出す、
④着服目的で引き出す、
などです。

そして、どの使途なのか分からない引き出しは、使途不明金となり、紛争の引き金になります。

①の場合、きちんと、何に使用したか領収書やメモを作成していれば、残った現金を平等に分配することで足ります。
この説明を怠ったり、残高が合わない場合には、④の着服ではないかと疑われ、訴訟に発展します。

②の場合には、被相続人の同意がありますので、他の相続人に返還する必要はありません。
ただし、その贈与が、特別受益に該当するのか、親族の扶養義務としての生活費の支払と言えるのかで、その後の遺産分割に影響がでます。
特別受益だとすると、原則として、残った遺産の分配において、調整をしなければなりません。

③の場合には、被相続人が自分で引き出して、自分で使った状態と同じですので、何ら遺産分割に影響を与えません。

④の場合が典型的な使途不明金です。被相続人の了解なく、自己のために引き出した金額については、不当な利得となるので、他の相続人に返還しなければなりません。


2 使途不明金を解決する訴訟手段

引き出しに関与した相続人が、調停のなかで、上記①~④等の使途をきちんと説明してくれれば、それぞれの使途に応じた解決をすることができます。
しかし、使途の説明ができず、④の着服が疑われる事案においては、遺産分割調停とは別に、民事訴訟を提起する必要があります。
遺産分割調停・審判においては、分割時に存在する財産を分けることしかできず、相続人の誰かが隠匿しているかどうかまで踏み込んだ判断はされません。
具体的には、地方裁判所ないし簡易裁判所に不当利得返還訴訟・損害賠償請求訴訟を提起し、相手方が被相続人の意思に反して引き出したことを明らかにする必要があります。


3 死亡後の使途不明金のポイント

死亡後の金融機関の凍結前の引き出しは、当然ですが、既に死んでいる被相続人の同意はありませんので、引き出した者は、不当利得返還義務を負います。
しかし、相続人全員が負担すべき必要経費として引き出したものであれば、平等に遺産を分配して、平等に費用を負担しただけですので、返還義務を負いません。例えば、生前の入院費用の支払であれば、いつかは払うものを先に払っただけなので、問題となりません。
結局のところ、何に使ったのかを明らかにするのが重要ということです。


4 死亡直前の使途不明金のポイント

死亡直前の引き出しも、被相続人の判断能力が欠けている時期の引き出しであれば、返還義務を負う可能性が高くなります。

例えば、死亡直前の入院中の1週間に、限度額いっぱいまで連日引き出されているようなケースでは、病院への支払を除けば、少なくとも、入院中の被相続人のために使ったという主張は通りづらいでしょう。引き出されたATMの所在や、金融機関に提出された払戻請求書・振込依頼者の記載なども検討し、本人が引き出したと思えないような引き出しは、死後事務のための引き出しの可能性が高く、死後事務費を支出した残金の計算が合わなければ、一部は不当な利得と言える可能性があります。

一方で、亡くなる数年前から、毎月一定額が引き出されており、被相続人がこれを黙認していたのであれば、生活費の援助として被相続人の同意があった可能性が高く、不当利得とすることは難しくなります。

 


5 使途不明金でもめないためのテクニック

使途不明金の問題は、相続事件のなかでは、紛争の引き金になりやすい点ではありますが、きちんと説明を受けることができれば、円満に解決できることが多いです。

被相続人の預貯金の流れは、相続人の誰でも、金融機関に依頼をすれば、取引履歴という入出金の明細書を発行してもらえます。そのため、死亡前後にお金がどれだけ引き出されているかは、他の相続人には、すべて明らかになってしまいます。

お金の流れを他人に伝えるのは意外に難しい作業ですが、相手がお金の流れを把握している可能性も踏まえて、きちんと説明を行いましょう。

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