STEP06 | 遺産紛争の解決手段
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弁護士が解説する、葬儀費用を争う訴訟のポイント
この記事の目次
1 葬儀費用が訴訟で争われる場合とは?
葬儀費用は、喪主が支払をすることが通常と思われます。
喪主の財産から支出することもあれば、遺産の中から支出することもあるでしょう。
葬儀費用は、死後に発生した支払ですので、「遺産」、つまり、「被相続人の債務」には含まれません。
そのため、相続人間で、遺産から払うべきだったのか、喪主が自分の財産から負担すべきだったのか、争いとなり、負担割合を決めるに、民事訴訟に発展することがあります。
2 葬儀費用に関する訴訟と遺産分割調停の違い
遺産分割調停は、あくまで当事者の合意を目指す手続であるのに対して、訴訟は、法律にしたがって、証拠を提出し、法的な判断を下す場です。
葬儀費用に関しては、相続人1人が立て替えたのに、他の相続人が遺産からの清算を認めない場合、立て替えをした相続人は、他の相続人に対して、不当利得返還請求訴訟という訴訟を提起することが考えられます。
不当利得返還請求とは、本来は全員で負担すべきものを、理由なく、個人が立て替えたことで、一方に損が発生している場合に、反対に得をしている者から、利得を返還させる請求です。
3 訴訟での主張・交渉のポイント
訴訟においては、葬儀に関して支出された費用のうち、本来全員で負担すべき部分はどこだったのかが争われることになります。
この点について、香典や職場からの補助金などの範囲で葬儀費用が足りるのであれば、それを超えて支払ったのは喪主の責任であるとして、全て喪主の負担とする説や、葬儀は死者のために行われるものであることから相続財産から支出されるという説が対立しており、裁判例も分かれているところです。
①葬儀費用の額、②相続人が葬儀に参加した度合い、③相続人との打ち合わせ状況、③香典の金額、④故人の社会的な身分、⑤遺産の金額などの事情を考慮して、返還義務の有無を審理します。
葬儀を進めるにあたって、他の相続人に相談しながら進めていた場合には、返還が認められやすく、反対に、喪主が相談をせず一方的に進めてしまった場合には、返還が認められづらくなります。
4 葬儀費用でもめる背景
ご家族によっては、「長男が喪主を務めるのだから、長男が負担するのが当たり前ではないか」、というご意見もあるでしょうが、相続財産を平等に受け取ることとの均衡上、葬儀に関しても均等にするという考えの方が多くなっているようです。
5 葬儀費用は調停中に解決するのがベスト
葬儀費用に関して協議が成立しなければ、民事訴訟を提起しなければならず、訴訟コストがかかります。
多くの遺産分割調停においては、葬式費用程度であれば、清算の合意がとれることがほとんどで、高額な墓石代や将来の法要の費用などの清算を求めることがきっかけで、協議が不成立になることが多いです。
高額な墓石費用や法要費用は、訴訟を提起したとしても勝訴する可能性が少ないため、このような事案では調停で解決することが望ましいでしょう。
一方で、遺言書などによって遺産の全てを取得した相続人が、一切葬儀費用を負担しないというケースもあり、このような場合には、訴訟による解決もやむを得ないと思われます。