1 問題となるケース
Q 父は事業を営んでいましたが、事業のための融資を受けており、借金も抱えていました。
長男が事業を引き継ぎ、遺産を全て相続したのですが、長男の経営が危ないようです。
仮に長男が破産をした場合、わたしたち他の相続人にも借金の支払義務があるのでしょうか。
2 兄妹で遺産分割をした場合
父親の死亡後、兄妹で長男が全て財産も借金も引き継ぐという遺産分割協議書を作成していた場合、兄妹間では、長男が借金を全て負担する合意がありますので、長男が1人で支払をしていく義務があります。
しかし、長男の支払が滞ったときは要注意です。
金融機関などの債権者は、資力のある人に請求を始めます。これは、借金は、遺産分割の対象ではなく、法定相続分に従って、当然に、分割して承継されるからです。
つまり、相続人間で、長男が全て払うと合意しても、債権者はその合意には参加していないので、債権者は、遺産分割協議とは無関係に、他の相続人に請求することができるのです。
仮に他の兄妹が借金を払った場合には、兄妹は、長男に求償することができますが、長男の資力が尽きれば回収はできません。
3 遺言書で指定されていた場合
父親が、遺産の全てを長男に相続させる遺言書を作成していた場合は、遺産分割協議をした場合と比較して、他の兄妹の借金の扱いは変わるでしょうか。
答えは、残念ながら、変わりません。遺言に参加していない債権者にとっては、遺言は関係ありません。債権者は、遺言の内容にかかわらず、他の相続人に法定相続分に従って、借金の支払を請求することができるのです。
4 相続の放棄がベスト
遺産をもらっていないのに、どうして借金は払わないといけないの?そう思われるのはもっともですが、それは、あなたが「相続人」だからです。
「相続人」でなかったことにするには、放置や遺産分割協議書へのサインでは足りず、家庭裁判所で「相続の放棄」の申述手続きを行う必要があります。
相続の放棄をしていれば、借金の取り立てを受けることはありません。
両親が事業をしていて、1人が引き継ぐというときは、他の親族は、万が一のときを考えて、相続の放棄をしておきましょう。
相続の放棄の詳しい記事はこちら
5 時効による救済の可能性も
相続の放棄が家庭裁判所で認められなかったとしても、直ちにあきらめる必要はありません。
債権者との関係では、消滅時効という制度によって、支払を免れることができる場合があります。
どうしても、法的な支払義務を避けれないというときには、債務整理(任意整理、個人再生、自己破産など)をとることで、生活を安定化させることができます。
相続が開始したら、まずは、法律事務所に相談に来てください。