STEP01 | 亡くなった後に行う手続き
1-7
家族が業務中に死亡した場合の労災保険の申請や損害賠償の流れを弁護士が解説
この記事の目次
1 労災保険とは?
労災保険とは、「労働者災害補償保険」の略です。
国は、従業員が通勤または業務上の災害によって負傷・疾病・障害・死亡などの被害を受けたときに保険金を給付するために、企業に対して、保険料の納付を義務付けています。
労災保険料は、従業員の給料から負担しているのではなく、企業が負担しています。
民間の生命保険や医療保険は、本人が自分の意思で契約者として保険料を負担していますが、労災保険は、国が加入を強制し、企業に保険料の納付義務を認めた公的な保険です。
2 遺族がとるべき手続
2-1 遺族補償給付と遺族給付の違い
労働者が、業務中の事故または通勤中の事故によって死亡した場合、遺族は、労災保険から、遺族補償給付・遺族給付を受領することができます(労働者災害補償保険法12条の8第1項4号、21条4号)。
これは労災保険という保険金の請求であって、直接、企業や加害者の責任を問うものではありません。
ただし、企業や加害者の責任を問うものではないといっても、例えば、業務中に、仕事と全く関係のない持病で死亡したというときには、「業務災害」ではないという理由で、労災保険がおりません。もっとも、過労死等の業務が誘因となって死亡した事案について、業務災害として労災保険が下りる場合の要件については、厚生労働省のホームページに基準が公表されていますので、事故以外で死亡したケースにおいては、厚生労働省のホームページの認定基準をご覧ください。
労災保険が使える場合、業務中の事故のときに支給されるのが「遺族補償給付」、通勤中の事故のときに支給されるのが「遺族給付」です。
通勤中の事故については企業が直接の加害者となるわけではないため、「補償」という文言が削除されています。
2-2 労災保険と損害賠償請求の違い
死亡が、第三者(企業を含む。)の加害行為によって引き起こされた場合には、遺族は、その第三者に対して、損害賠償請求を行うこともできます。
これは保険金の請求ではなく、不法行為責任を問う請求になります。
例えば、通勤中に、交通事故に遭い死亡した場合、遺族は、労災保険に遺族給付を請求することもできますし、交通事故の加害者に損害賠償請求をすることもできます。
労災保険と損害賠償請求は、それぞれ異なる特徴があります。
労災保険の請求は、保険金の請求ですので、故人の過失は問題にならず、保険金を受領することができます。金額は、労災保険の規定に沿って、定型的な計算をもって算定されます。
一方で、損害賠償請求は、例えば、故人に過失があると過失相殺が行われます。また、第三者の加害行為に違法性が認められる必要性があります。さらに、特徴としては、金額が、定型的ではなく、交渉や裁判によって個別に確定するという点があります。
3 労災保険に対する遺族補償給付の申請(業務災害のケース)
3-1 種類
遺族補償給付には、遺族補償年金と遺族補償一時金の2種類があります(同16条)。
3-2 提出先
書類の提出先は、所轄労働基準監督署長です(同法律規則15条の2、18条の9)。
3-3 受給する資格
遺族補償年金については、遺族のうちだれもがもらえるわけではなく、故人の死亡時に、その人によって生計を維持されている者で、妻、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順に受給資格があります(同16条の2第1項・3項)。
配偶者以外には、さらに、詳細な年齢要件などが必要です。
3-4 年金の終期
遺族補償年金がいつまでもらえるかについては、受給者ごとに異なる基準があり、例えば、妻については、第三者と再婚をすると妻の遺族補償年金の受給権は消滅し、次順位者に権利が移ります(16条の4)。
3-5 遺族補償一時金とは?
年齢要件や、生計を維持されていなかったなどの理由で遺族補償年金を受給できる遺族がいなかった、または、遺族補償年金を妻が受給していたが妻が再婚したなど途中で遺族補償年金を受給できる人がいなくなった場合、遺族は、労災保険から遺族補償一時金を受給できます(同16条の6-1項①②)。
3-6 葬祭料も受給できる。
さらに、遺族は、労災保険に葬祭料を申請することができます(同17条)。
4 労災保険に対する遺族給付の申請(通勤災害のケース)
遺族給付には、遺族年金と遺族一時金があります(22条の4)。
受給資格や支給要件は、基本的には、業務中の事故による遺族補償給付と同じですが、通勤災害については、業務災害と異なって企業に直接の責任がないことから、「補償」という言葉が使われておりません。
葬祭に関する費用も、葬祭給付として申請できます(22条の5)。
5 加害者や企業の対する損害賠償の請求
労災保険は、あくまで保険金請求なので、請求するかしないかは遺族の自由です。
また、労災保険から年金として受給するより、加害者に責任を果たさせる趣旨で、加害者に損害賠償請求を行うケースもあります。
例えば、通勤中の交通事故で死亡した場合、労災保険を申請することもできますが、加害運転者とその保険会社に対して損害賠償請求を行うことが多いです。
また、業務中に同僚が運転する重機などの操作ミスで死亡した場合も、同僚および企業に損害賠償請求を行うことが多いでしょう。
このように、第三者の加害行為と死亡の因果関係がはっきりしている事案については、損害賠償請求を行うことが多いです。
6 労災保険と加害者への損害賠償請求権の関係
6-1 重複して受給することは原則できない。
労災保険は、遺族に生じた損害を補填する趣旨の保険金になるので、例えば、先に遺族補償年金の受給をスタートさせると、その遺族補償年金を受給する都度、加害者への賠償金が減額されていく関係にあります。これを損益相殺と言います。
一方で、加害者から先に損害賠償金を受領すると、その中に含まれる逸失利益(労働者の死亡により遺族が喪失して得ることができなくなった利益)に相当する金額に達するまで、最長7年間、労災保険が支給停止となります(労働者災害補償保険法12条の4第2項)。
6-2 損害賠償請求と労災保険の進め方
損害賠償請求を行うには、第三者の加害行為と死亡の因果関係がはっきりしている必要があります。
また、第三者が賠償保険に加入していなかったり、資力が乏しい場合には、例えば責任があったとしても、一括で賠償金を受け取ることができないことがあります。
そのため、誰のせいで亡くなったのか因果関係がはっきりしない事案や加害者がいたとしても資力がなく賠償を受ける見込みがない事案においては、労災保険を申請していくことが多いと思われます。
一方で、加害者の賠償義務が明らかで支払が可能な場合には、賠償を先に受け、その後労災を申請することが多いと思われます。
労災は、現在、支給調整期間を最長7年としているため、賠償金を先行して受け取っても、災害から7年後には遺族補償年金の支給停止が解除されるので、賠償金受領後も、労災保険を申請するメリットがあります。
7 労災事故は弁護士へ
労災事故は、手続が複雑で、会社が労災申請に協力してくれなかったり、労災申請には協力してくれても、会社が賠償責任を認めないこともあります。
会社に落ち度がある事故においては、労働者は、会社に対して、精神的苦痛などの慰謝料を請求できます。
当事者だけでの解決が困難であれば、弁護士が被害者や遺族の代理人として、会社と交渉や裁判を行います。
ご家族が労災事故に遭った場合には、まずは、弁護士にご相談ください。