遺産分割協議書の書き方を弁護士が解説!
1 遺産分割協議書に書く内容は?
(1)遺産分割協議書のイメージ
多くの遺産分割協議書は以下のような構成をとっています。一つずつ解説します。
- タイトル
- かしら書き(被相続人と相続人の特定)
- 遺産の範囲の確認
- 分割方法の取り決め
- 清算条項
- 他に遺産が見つかったときの分割方法の取り決め
(2)タイトル
「遺産分割協議書」とするのが通常です。
不動産登記実務上、「遺産分割協議証明書」というものを作ることもあります。
これは、既に相続人間で遺産分割協議が行われたことを、法務局などの機関に対して、相続人が「たしかに、こういう内容で遺産分割をしました」と証明する文書です。法務局に、不動産以外の遺産の内容や家族間の情報などを伝えたくないとき、また、遺産分割協議書を一から作るのは大変なので「不動産だけこういう分け方をしました」と証明するときに、作成します。
(3)かしら書き(被相続人と相続人の特定)
これは、誰の遺産について、協議するのか明らかにするための前書きです。亡くなった人が誰なのか、相続人が誰なのか明らかにします。
「被相続人山田太郎(昭和●年●月●日生まれ:本籍地▼▼:死亡日平成●年●月●日)の相続人である山田花子、山田一郎及び山田次郎は、被相続人の遺産について、以下のとおり、協議した。」
また、相続が続けて発生してしまっている場合には以下のように、説明します。
「被相続人山田太郎(昭和●年●月●日生まれ:本籍地▼▼)は平成●年●月●日死亡した。山田太郎の相続人は山田花子、山田一郎及び山田次郎である。山田花子(昭和●年●月●日生まれ:本籍地▼▼)は、令和●年●月●日死亡した。山田花子の相続人は、山田梅子である。山田梅子、山田一郎及び山田次郎は、被相続人山田太郎の遺産について、以下のとおり、協議した。」
ポイントは、遺産の名義人を「被相続人」として特定することです。
例えば、おじいちゃんの名義になっている不動産の名義を変えるには、おじいちゃんを被相続人とした相続人全員の遺産分割協議書を作成する必要があります。
(4)遺産の範囲の確認
不動産や預貯金、株式などの遺産の一覧表を作成して、「別紙遺産目録」として添付するか、協議書内に、全ての遺産の内容を列挙します。これは、被相続人名義の遺産であっても、実は、第三者の遺産であり、後日、これを理由に紛争が再発しないよう防ぐ趣旨です。
専門家が作成する際には、以下のような文章を記載し、「遺産目録」という別紙を添付することが多いです。
「相続人全員は、別紙遺産目録記載の財産が、被相続人の遺産であることを確認する。」
(5)分割方法
ア 原則形態
A・B・Cという3種類の遺産があり、どれも均等な遺産だと仮定します。
その場合の分割方法の記載例はこのような記載になります。
Aを山田花子が取得する。
Bを山田一郎が取得する。
Cを山田次郎が取得する。
注意するのは、実際に協議書を提出する金融機関や法務局に、分配方法が分かるように書かないといけないということです。
ここではA,B,Cと列挙しましたが、場合によっては土地であったり、預金であったりします。土地なら正確な番地を、預金なら正確な口座番号を記載しないと法務局や金融機関で受け付けされない、もしくは、別の相続人のものとなってしまうこともありますので、何度も読み返して確認しましょう。
イ 代償分割
遺産がAしかなく、Aを相続人の1人が取得し、他の相続人には金銭を払うという分割方法を代償分割といいます。その場合の分割方法の記載例はこのような記載になります。
Aは山田花子が取得する。
山田花子は、Aを取得した代償として、山田一郎に対し、●●円を支払うこととし、これを平成▼年▼月▼日限り、山田一郎の指定する口座に振り込む方法により支払う。
(6)清算条項
清算条項とは、遺産分割協議書で取り決めた遺産について、取り決めた分割方法以外には、今後、お金のやりとりがないことを確認する条項です。
これは、例えば、2種類の遺産の額が不均衡だった場合に、あとで、少ない方の遺産を取得した人が、相手に対して、「あのとき遺産を多くもらったんだから、いくらか返せ」と文句を言わないということの誓約です。
「相続人全員は、被相続人山田太郎の遺産について、本遺産分割協議書に定める他、何らの債権債務関係がないことを確認し、名目いかんと問わず、金員の支払を求めない。」
(7)他に遺産が見つかったときの分割方法
A・B・Cという3種類の遺産については、分割方法を取り決めたけど、万が一、「D」という遺産が出てきたときに、どう分けるのかを取り決める条項です。
再度、話し合って決めるのであれば、単に以下のように記載します。
「新たな遺産が見つかった場合には、その分割方法については別途協議する」
2 書く紙の枚数や大きさは?
枚数や大きさに制限はありません。
ただし、2枚以上になる場合には、「契印」をする必要があります。
2枚の紙の左端をホチキス止めし、1枚目をめくった1枚目と2枚目の境に、署名欄に押印した印鑑と同じ印鑑で、押印します。これは、複数枚の紙が一体であることを証明する印です。
通常は、相続人全員が「契印」します。
協議書が2枚に渡ると契印が必要となり、相続人の中で押し忘れる人が出てくる等ミスが多くなるので、A3くらいの大きな紙1枚に収まると良いですね。
3 住所は必要?
法律上、住所を書くことは必須ではありませんが、実務上は、住所も記載します。
遺産分割協議書は、相続人全員(放棄者を除く)が署名する必要があります。
もし、住所が記載していないと、同姓同名の人が署名している可能性を否定できず、有効な遺産分割協議書なのか分からないなどと理由をつけて、金融機関や法務局は受付をしません。
住所の記載がなくても相続人全員が合意したのであれば、遺産分割協議書は当事者間では有効ですが、当事者間で有効でも、目的となる預金の解約ができなければ遺産の分けようがありません。
したがって、実務上は、住所を記載します。
住所を書く際には印鑑証明書に記載された住所と同じ住所を書くことが一般的です。遺産分割協議書に記載した住所と、提出する印鑑証明書に記載された住所が異なると、金融機関や法務局の受付ができないことがあります。
ただし、どうしても、相続人間で住所が知られたくないというケースもあるでしょう。住所を知られずに相続手続きをする方法として、簡単な方法としては、弁護士等の守秘義務がある専門家が間に入り、全員の住所をあずかって、金融機関や法務局に対しては住所を申告しますが、相続人同士では住所が知られないように情報をシャットアウトすることが考えられます。
4 印鑑は実印?
法律上、実印での押印は必須ではありませんが、実務上は、実印で押印します。
遺産分割協議書は、相続人全員が作成したのであれば、印鑑が無くとも有効なはずです。
しかし、金融機関や法務局からすれば、本当に相続人が署名押印したのかは定かではありません。
当事者間では有効な遺産分割協議書であっても、名義変更をするときに、実印で押印されていないと、金融機関や法務局に受け付けてもらえません。
そこで、実印で押印をし、印鑑証明書を提出をすることで、本当に相続人が合意して作成したということを証明するのです。
5 作る枚数は?
相続人の人数分作ることが多いです。
しかし、名義変更手続を行う担当を決め、その人に1枚の原本を預け、その写しを他の相続人に交付するという場合もあります。要するに、絶対、全員分つくる必要はないですが、原本が必要な人の人数分つくるということです。
6 まとめ
いかがでしたか?
遺産分割協議書の形式は、そこまで厳格な取り決めがあるものではありません。
大事なのは、印鑑を押す前に、内容を確認することです。また、押させる方としては、きちんと、遺産の内容を開示することです。
遺産分割協議書の作成以外の知識についても、まとめておりますので、是非、ご覧ください。
相続に関する全体像を知りたい方は、こちらのページをご覧ください。
相続税の納税額の計算方法や概算について知りたい方は、こちらのページをご覧ください。
葬儀費用や香典の負担についての解説は、こちらのページをご覧ください。
遺族が忘れずに申請しておくべき葬祭費・埋葬料・遺族年金などの手続は、こちらのページをご覧ください。
故人の契約の解約に関する解説は、こちらのページをご覧ください
遺産の分け方に関する解説は、こちらのページをご覧ください。
名義変更の方法に関する解説は、こちらのページをご覧ください。
不動産の相続に関する解説は、こちらのページをご覧ください。
株式の相続に関する解説は、こちらのページをご覧ください。
遺留分に関する記事は、こちらのページをご覧ください。
相続の放棄に関する解説は、こちらのページをご覧ください。
労災事故に関する解説は、こちらのページをご覧ください。
交通事故に関する解説は、こちらのページをご覧ください。
7 遺産相続を専門家に依頼するのはどんな場合?
遺産相続で関わる専門家としては、税理士・弁護士・司法書士などが挙げられます。
この中で、相続人同士や第三者との交渉が必要な相続事件の解決は、弁護士が専門です。
そして、以下のようなケースでは、弁護士に依頼することで、相続問題を解決できる場合があります。
- 交通事故や労災事故で死亡したので損害賠償請求をしたい。
- 相続人と連絡がつかない
- 遺産として何があるかが分からない
- 遺言書や遺産分割協議書の内容に納得ができない
- 生前に多くの贈与がされており残った遺産だけでは平等ではない
- 不動産の分け方がきまらない
- 株式の分け方がきまらない
- 会社が保険料を払っていた生命保険があるけれど会社と話がすすまない
- 供養の費用でもめている
- 調停や裁判の代理をしてほしい
- 相続の放棄をしたい
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